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プラズマエネルギーシステム研究室

豊橋技術科学大学

電気・電子情報工学系

滝川研究室

シールド型真空アーク蒸着装置の進展










Uploaded July 01, 2014
Progress of Shielded Cathodic Vacuum Arc Deposition
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 シールド型真空アーク蒸着の最大の欠点は,蒸着速度(成膜速度)が低いことです。これは,シールド板でドロップレットを捕獲すると同時に,イオンの一部も捕獲してしまうからです。そこで,蒸着速度を向上させるために,幾つかの工夫を施しました。以下に,その変遷・進展を示します。

タイプ モデル図 特徴等
ノーマル型(ノンシールド型)
Cathodic Arc Deposition
(CAD)
ドロップレット除去システム無し(ただし,ドロップレット発生量の多少の減少および陰極の片減り防止のため,陰極点ステアド用磁石は配置)。
陰極蒸発物・放出物(イオン・中性粒子・ドロップレット)すべて蒸着。
シールド型
Shielded Cathodic Arc Deposition
(SCAD)
陰極と基板との間にシールド板を配置。このシールド板で,ドロップレットが基板に到達するのを防ぐ。
ただし,イオンの一部や中性粒子もトラップされ,成膜速度が減少してしまう。成膜速度はノーマル型に比べ,1/5〜1/3程度。
エンハンス型
Enhanced Shielded Cathodic Arc Deposition
(E-SCAD)
基板背後に永久磁石を配置。この磁界によって,イオンおよび電子からなるプラズマを基板方向へ誘導。
最大成膜速度は,CADの2倍以上,SCADの10倍以上。
改良エンハンス型
Improved E-SCAD (IE-SCAD)
基板背後に電磁コイルを配置。広範囲に及ぶ磁界を用いて,イオンおよび電子からなるプラズマを基板方向へ誘導。
成膜エリアは,E-SCADの数倍。
改良エンハンス型2
Improved E-SCAD (IE-SCAD-2)
別称:磁気輸送シールド型
Magnetically Transported-SCAD
(MT-SCAD)
基板背後に電磁コイルと永久磁石とを配置。両方の合成磁界により,広い成膜面積を確保。
超電導シールド型
Superconductor Shielded Arc Deposition
(SC-SCAD)
シールド板にトラップされるイオンを少しでも減少させ,成膜速度を向上させることを狙い,シールド板に超伝導体を採用。
IE-SCADの1.5倍以上の成膜速度が得られる。

 E-SCAD,IE-SCAD(MT-SCAD),およびSC-SCADでは,陰極点駆動用(ステアド用)の磁石と基板近傍における磁石とが形成する合成磁界が重要です。両磁石が形成する磁界は,下図(E-SCADを例とした)に示すように,極性を同方向にしたカスプ型と極性を反対にしたミラー型があります。どちらの場合も成膜速度を向上できますが,どちらかというと,ミラー型の方が有効です。

カスプ(Cusp) ミラー(Mirror)

 E-SCAD,IE-SCAD,およびSC-SCADの場合の磁界分布のイメージを次に示します。

SCAD IE-SCAD SC-SCAD


 SC-SCADの場合,超伝導体シールドの表面にはマイスナー効果(Meissner effect)が発生します。つまり,陰極背後の陰極点駆動用磁石と基板近傍の磁石との合成磁界は,シールドを迂回するように形成されます。その結果,イオンと電子とからなるプラズマ(中性粒子をほとんど含まないプラズマ)は,その磁界に沿って輸送されます。更に,その結果として,成膜速度が向上することになります。

 なお,磁界によってプラズマが輸送されるメカニズムは,磁気輸送型(磁気フィルタ型)真空アーク蒸着法のページで説明します。

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