Updated July 03, 2014 | |
アーク放電法によってフラーレンを合成するには,まず,不活性ガスを充填した容器内に二つの黒鉛(グラファイト)電極を向かい合わせてセットします。始めに,二つの電極を接触させておき,そこに直流電流を流します。次に,二つの電極を引き離すと,電極間にアーク放電(アークプラズマ)が発生します。電極と電極との間を1〜2mm程度にしておくと,プラス極(陽極)が激しく蒸発します。この陽極の蒸発物はアークプラズマ中を経由して,広い空間に逃げ出し,すすとして容器の内壁にべったりと付着します。このすすの中にフラーレンが含まれています。フラーレンは,トルエンやキシレンなどの有機溶媒に溶けます。ですから,容器内部からすすを回収し,有機溶媒に入れて,フラーレンを分離し,取り出します。 |
当研究室で設計・製作したフラーレン合成装置です。装置(容器)の中には,フラーレンを効率的に合成できるように,水冷ジャケットを内蔵させてあります(これが重要)。装置の中央部に二つのグラファイト電極が水平に対向して配置してあります。 |
上の装置を模式的に表したもので,とても単純な装置です。 |
二つの黒鉛電極間で発生したアーク放電を拡大して撮影したものです。右側の電極が陽極(プラス極)です。左側の電極が陰極(マイナス極)です。陽極の近傍は青緑色に強く発光しています。これは,陽極から蒸発した炭素が炭素分子(C2)となり,この分子のSwanバンドが発光しているからです。 |
回収したすすの中に存在するフラーレンの量をフラーレン収率(通常,質量パーセント:wt%で表します)は,条件によって大きく変わります。条件とは,雰囲気ガス種,圧力,電極サイズ,電流の大きさ,電流の形(直流,交流,パルス),冷却半径などです。 |
フラーレン収率が最もよいガスはヘリウム(He)です。これは,Heの電離電圧が高いために,なかなかアークプラズマ中に侵入せず,従って,アークプラズマがほぼ炭素蒸気で満たされるからです。もっと収率を良くするには,ヘリウムガスもなく,容器全体が炭素の蒸気で満たされればいいのですが,炭素は常温では固体なので実現は難しいところです。 ヘリウムガスを用いた場合,フラーレン収率の最大値は15 wt% を超えています。この値を超える装置は世界にもあまりありません。装置を作るときにはきちんと密閉できるように作りましょう。大気のリークがあるとチャンピオン値は得られません。 また,ヘリウム以外でも,酸素(O2)や炭酸ガス(CO2)でもフラーレンは結構作れることがわかります。 |
もう一つ重要な研究成果は,圧力依存性です。従来から圧力10 kPa程度がいいと言われてきましたが,実は大気圧程度(100 kPa)もいいんです。大気圧より高くなるとまた収率が下がりますが。。。 このように圧力については2箇所適切な値があります。でも,ちょっとでも圧力が変わると収率ががくんと悪くなります。装置を運転しているときの圧力変化に気をつけましょう。また,大きな圧力変化が発生しないように装置を設計することも重要です。 なぜ,二つの圧力でフラーレン収率が良くなるかの理論的解説は,薄葉州(うすば しゅう)先生(産業技術総合研究所 新炭素材料開発研究センター 極限反応チーム)にお尋ね下さい。 |
これまでのところ,どんなにがんばってもフラーレン収率は20 wt% を超えません。この値を超える装置や手法が開発されれば,世界的なビッグニュース(+大金持ち?)になります。アイデアがある方,是非ご連絡ください。