Uploaded October 09, 2001 Nanotubes in Low-Pressure Hetero-Electrode Arc (Graphite Electrode v.s. Molybdenum Electrode) |
従来の黒鉛電極間の低圧アーク放電の場合,陽極からの蒸発物質が高温のアークプラズマを経由して陰極上に堆積し,その堆積物の一部すなわちソフトコアに多層カーボンナノチューブが存在しました。このことから,直感的には,陽極の蒸発物質がプラズマを経由してナノチューブ化して陰極に堆積すると考えられます。果たしてそれは本当でしょうか。また,なぜ,陰極の堆積物は,ハードシェルとソフトコアの2種類になるのでしょうか。 陽極の寄与,MWCNTの本来の合成現象,ハードシェル・ソフトコアの堆積現象などを検討するため,片方の電極の種類を変えたヘテロアークを用いた実験を行いました。 |
低圧チャンバ内に,純黒鉛(C)とモリブデン(Mo)の丸棒電極を対向させて配置し,接触点弧によって電極間にアークを発生させます。また,それぞれの材料が,陰極・陽極になるように,外部回路を変更することによって,極性も変えました。すなわち, 陰極:C,陽極:Mo 陰極:Mo,陽極:C の組み合わせで,実験を行いました。実験条件は以下のとおりです。 ・アーク電流: 50 A ・雰囲気:He,25 kPa ・放電時間:約 1秒 |
実験の結果は次のとおりでした。
陰極:C,陽極:Mo ・・・ C陰極表面にMWCNTが存在。Mo陽極表面にはナノチューブは存在せず。
陰極:Mo,陰極:C ・・・ Mo陰極,C陽極表面ともナノチューブは存在せず。
このことから,『陰極が黒鉛の時だけ,陰極表面上の陰極点でMWCNTが合成される。陽極は黒鉛でなくてもよい。』ことがわかりました。すなわち,陽極はMWCNTの成長には根本的な寄与は果たしていないことが判明したのです。
観測したC陰極(対Mo陽極)の陰極点クレータとそこに形成されたナノチューブの様子を示します。陰極(直径
6mm)表面の全体写真からは,中央から右横に,陰極点が移動して形成された陰極点クレータがわかります。この内部を観察すると,ナノチューブ(MWCNT)が存在していました。
陰極表面の全体写真 | 左写真の四角個所で観察されたナノチューブの様子 | |
(クリックして拡大するとナノチューブの様子がよくわかります) |
Uploaded October 09, 2001 Nanotubes in Low-pressure Catalytic Hetero-Electrode Arc (Graphite with Nickel/Yttrium Electrode v.s. Molybdenum Electrode) |
上の実験には,純黒鉛を用いました。金属入り黒鉛の場合はどうでしょうか。ニッケル(Ni)とイットリウム(Y)を混ぜた黒鉛を陽極に用いると,すす中に単層カーボンナノチューブ(SWCNT)が得られることが知られています。陰極表面や陽極表面はどうでしょうか。
そこで,純炭素電極(C電極)の代わりに,Ni/Yを混ぜた電極(Ni/Y-C電極)を用いて低圧へテロアーク実験を行ってみました。実験条件は,アーク電流:50
A,雰囲気:He (25 kPa),放電時間:約 1 秒としました。
実験結果は以下のとおりでした。
<陰極:Ni/Y-C,陽極:Mo場合>
Ni/Y-C陰極・・・陰極点クレータにMWCNTが存在。 (C陰極-Mo陽極の場合と同じ結果)
Mo陽極 ・・・ナノチューブは存在しない。 (C陰極-Mo陽極の場合と同じ結果)
<陰極:Mo,陽極:Ni/Y-Cの場合>
Mo陽極 ・・・ナノチューブは存在しない。
Ni/Y-C陽極・・・陽極点痕にMWCNTが多数存在。「ほうき」状に集合している。
この様子を下に示します。
陰極 | 陽極 | Ni/Y-C電極表面の拡大写真 | |
陰極:Ni/Y-C 陽極:Mo |
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陰極:Mo 陽極:Ni/Y-C |
この実験から,次のことがわかりました。
陰極が黒鉛系の材料であれば,陰極点クレータにナノチューブが合成される。触媒性の金属不純物が混じった黒鉛でも,合成されるのはMWCNTである。 | |
触媒性金属を混ぜた黒鉛を陽極とすると,陽極点痕に多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が形成される。 |
なお,Mo陰極 - Ni/Y-C陽極 の場合に発生したススを分析したところ,スス中には単層カーボンナノチューブ(SWCNT)が含まれていました。