Updated July 03, 2014 MWCNT Formation in Cathodic Vacuum Arc |
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アーク放電と言っても,高圧(大気圧以上)や低圧で発生するアーク放電と,真空中で発生するアーク放電とは現象が異なります。それぞれの特徴について次の表にまとめます。 |
分類 | 高・低圧アーク (高温アーク,熱プラズマ) |
真空アーク (低温アーク,コールドプラズマ) |
電極間の 電位分布 |
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圧 力 | 0.1〜1 kPa (1〜10 Torr)以上 | 0.1〜1 kPa (1〜10 Torr)以下 |
陰 極 | 小さな陰極点(数mm以下)が形成される。陰極材料の蒸発を伴う。電圧降下がある。 黒鉛陰極の場合の陰極点温度は,4,000 K 程度。 |
高圧アークの場合とほぼ同サイズ,同温の陰極点が形成される。陰極点の直前には,イオン集積によるポテンシャルハンプが形成される。ポテンシャルハンプ内のイオンは双方向にドリフトし,陰極に向かうイオンは陰極表面を加熱し,陰極点の持続させる。陽極側にはポテンシャルハンプによって加速された高エネルギーのイオンが放出される。 |
陽光柱 | 高温。4,000 K以上。一般的には,8,000〜15,000 K。熱ピンチプラズマ(熱的に収縮したプラズマ) 陽光柱内には電界が形成される。 陽光柱のプラズマ粒子は雰囲気ガス。(ただし,電極間隔が短い場合は,電極材料の蒸気がプラズマ粒子となる。) |
低温。拡散プラズマ(収縮せず,拡散的に広がるプラズマ) 陽光柱内には電界は形成されない。 基本的に,プラズマガスは陰極材料蒸気。電子エネルギーは約 2 eV。イオンエネルギーは,10〜150 eV。この高エネルギーのイオンによって,プラズマ中に配置された基板に薄膜が合成できる。 |
陽 極 | 陽極点が形成される。蒸発を伴う。電圧降下がある。一般的に,陽極点温度>陰極点温度,陽極点径>陰極点径。 黒鉛陽極の陽極点温度は,5,000 K 程度。 |
一般的には,陽極点は形成されない(ただし,圧力が比較的高い領域ではフットポイントや陽極点が形成される)。従って,陽極は不活性で,蒸発がない。電圧降下もない。 |
平均自由 行程 |
圧力が高いため,極めて短い。 | 圧力が低いため,長い。ただし,陰極点領域は高密度高温プラズマであるため,平均自由行程は短い。 |
応 用 | 光源(アーク灯,キセノンランプ) 金属溶接 溶解(金属精錬,アーク溶鉱炉) 電力用遮断器 |
真空アーク蒸着(アークイオンプレーティング) イオン源 電力用遮断器 (真空でも,電極間隔を近づけることにより,熱プラズマを発生させることはできる。金属精錬に利用される。) |
低圧カーボンアークにおいて,『陰極が黒鉛でありさえすれば,陰極表面上にMWCNTが合成される。陽極はMWCNTの合成に対し,根本的な寄与はない』ことがわかりました。そこで,陽極そのものが不活性であり,陰極だけが活性である「真空アーク
<陰極アークとも言う> (Vacuum arc, cathodic arc)」でも,MWCNTが合成できるのではないかと考えました。
実験装置の模式図です。ターボ分子ポンプとロータリポンプで排気された真空チャンバの一端に,グラファイト電極を配置したものです。ステンレス製の真空チャンバ自体が陽極です。 真空アーク放電は次のようにスタートさせます。モリブデン(Mo)製のトリガ電極を一旦陰極に接触させ,電流を流した状態で引き離すと,陰極とトリガ電極との間にスパークが発生します。トリガ電極に適当な抵抗を接続しておくと,スパークが発生した後,陰極と陽極との間の抵抗の方が低くなるため,陰極と陽極との間に真空アーク放電が発生します。 陰極に黒鉛(グラファイト)を用いると,陰極点からカーボンイオンが放出されます。真空アークプラズマ中に基板を配置しておくと,このカーボンイオンによって,基板上にダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond-Like Carbon)膜が合成されます。 |
アーク電流 | : | 直流 60 A |
陰極 | : | 純黒鉛,Ni/Y金属入り黒鉛 |
雰囲気ガス | : | ヘリウム(He),水素(H2) |
放電時間 | : | 1s,1min,10min |
まず,1 秒間だけアーク放電を発生させて,陰極表面を観察してみました。
電極の種類 | 純黒鉛陰極 | Ni/Y入り黒鉛陰極 |
全体写真 (電極直径: 6 mm) |
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陰極点痕(クレータ)内 拡大SEM写真 |
約 1秒間のアーク放電によって,陰極表面には陰極点によって陰極点痕(陰極点クレータ)が形成されました。その様子が全体写真からわかります。その内部を観察したところ,予想どおり,ナノチューブが存在していました。純黒鉛でも,ニッケル・イットリウム(Ni/Y)入り黒鉛でも,ナノチューブは多層カーボンナノチューブ(MWCNT)でした。(注:Ni/Y入り黒鉛を従来の低圧アーク法の陽極に用いると,単層カーボンナノチューブが合成されます。)
この結果から,『陰極が黒鉛であれば,(たとえ,不純物が混じっていようとも) 低圧・真空に関わらず,陰極点クレータにMWCNTが合成される。陽極はMWCNTの合成に無関係。』であるということを更に明らかにできました
真空アーク放電の特徴として,「陰極点から陰極材料の微粒子,いわゆるドロップレットが放出される」という現象があります。そこで,黒鉛電極のドロップレットにもナノチューブが形成されていないかどうか調べてみました。ドロップレットを採取するために,今度は約10
min 間真空アーク放電を発生させました。真空チャンバ内壁にたまっていたドロプレッとを集め,その表面を観察してみました。
純黒鉛電極の場合
ドロップレット全体写真 | ||
拡大写真 |
Ni/Y入り黒鉛電極の場合
ドロップレット全体写真 | ||
拡大写真 |
以上のように,黒鉛ドロップレットの表面にはナノチューブが存在することがわかりました。また,陰極表面に合成されたナノチューブのように,陰極にNi/Y入りの黒鉛を用いても,ドロップレット表面に存在するナノチューブは,MWCNTでした。
通常,真空アークを薄膜合成に利用する場合,ドロップレットは邪魔者です。ドロップレットが生成膜に付着すると,期待通りの膜質(平坦性,光学膜の透明性など)が得られない場合が殆どだからです。しかしながら,ナノチューブを合成するという観点からは,この手法が有効に使える可能性があります。すなわち,真空アークプラズマ中に配置した基板上にDLC膜を合成すると同時に,ナノチューブが着いたドロップレットを堆積させることです。そこで,実験図に示したように通常の蒸着位置(イオンプレーティングの位置)にシリコン基板を配置して実験を行い,基板表面を観察してみました。プロセス時間は1
minとしました。以下に,観察結果を示します。陰極には,Ni/Y入りの黒鉛を用いました。
DLC膜とドロップレット | ナノチューブ付ドロップレット |
基板にはなかなかたくさんのナノチューブを持つドロップレットが着きません。それは,ドロップレットの多くは基板表面で反射してしまうからです。基板に工夫が必要でしょう。
真空アーク法におけるMWCNTの製造方法と利用方法を模式的に示します。